2-18. “Tú” o “Usted” 「王様とあなた」

スペイン語の「あなた」には Usted (ローマ字読みでいいのですが、語尾の d には母音が付いてないので「ウステッ」という感じ)と Tú (同じくローマ字読みで「トゥ」)の2種類あって、それをどう使い分けるのか? という話です。

その前に、日本語の「あなた」って、あれ比較的新しい言葉ですよね?
時代劇で「あなた」って言ったら、ちょっと違和感がある。(最近増えてるような気もするけど…)
現代でも面と向かって話をする時には、「あなた」というより「○○さん」と、名前で呼ぶことの方が多いんじゃないでしょか? 特に目上の人やお客さんに「あなた」っていうのって、抵抗ありません?
本来の日本語では、2人称代名詞というものがなかったというか、そもそも自分に対して相手、そしてそれ以外の彼、彼女なんていう概念が薄かったというか…そんな考察を大昔、新聞か何かで読んだ気がするのですが。

でスペイン語には「あなた」という概念は存在すると思うのだけれど、その「あなた」によって、代名詞、そしてそれに対応する動詞を使い分けるのですね。

一般に Usted の方が丁寧な言葉で「あなた」(*)、 それに対して Tú の方は、例えば「君」(…「お前」「あんた」「貴様」「おぬし」「おのれ」「ワレ」…あれ?)とか…というような説明もあるけれど…

…でも目上の人や年配の人に対しても、お互いに Tú で話す事も多い。
…上司と部下の関係は、お互い Tú で呼べる方が、うまく行っていると言える。
…かと思うと、先日の記事で紹介した「蝶の舌」という映画では、ひと昔前のスペインの小学校で、定年を迎える歳の先生が、子供の生徒に対して Usted を使っている。

Usted と Tú の違いは、年齢差や社会的な上下関係よりも、むしろ人間関係における距離感のようなものにあって、Usted の方が「距離がある」という説明の方がいい気がします。例えば…

勤めていた会社で、ある時、今まで Usted で話していた客のエライさんが、初めて Tú で呼んでくれたと、大喜びしてた営業部長がいた。それは彼にとっては、自分を対等に扱って貰えた象徴だったのですね。
逆に、慣れ慣れしくして欲しくないヤなヤツには、ワザと Usted で話して、相手にも Tú とは言わせないようにするってのもアリだし…

でも、「あなた」という概念さえ確立していない(?)日本人にとって、どういう「あなた」が Tú で、どういう「あなた」が Usted なのか、年齢や上下関係に拠らないとすると、益々判断が難しくなってしまう場合も多い。
友達や同僚の間なら、普通は年齢などには関係なく全て Tú でOKなのだけど、でも例えばその友達や同僚の親とか祖父母に紹介されたら…どうしたもんですかね?
一般に初対面の時、中にはむこうから「Tú で話そう」と言ってくれる人もいるけれど、そうでなければ、どっちにするか迷ってしまう…

そういえば、日本でも知られている映画監督のペドロ・アルモドバールは、テレビなどで見てると、自分の母親を Usted と呼んでいた。今のスペインで、子供に自分を Usted で呼ばせる親は先ずいないので、初めてそれを聞いた時は「へぇっ」という感じだった。仮にペドロ・アルモドバールと知り合いになってお母さんを紹介されたとしたら…やっぱり Usted で話すんでしょね?
でも友達の両親の中には、Usted なんて止めてくれっていう人もいたし…
一方で、自分の母親には Tú で話してるのに、姑には Usted で話してたりする友達もいるし…

これはもしかしたら、スペイン人にとっても、時には微妙な使い分けを必要とするものなのかもしれない?

でもね、スペイン中でただひとり、誰に対しても Tú で話せる、というか「話すべき」人がいると思う。それはスペイン国王!

実は平民が王様と話す時には、Usted より更にややこしい言い方をしなくてはいけないのですが、ま、そんな機会は余りないと思うので…要は「直接呼びかける」には畏れ多い存在ということで、その majestad (マヘスタッド…これも「マヘスタッ」っていう感じ、意味は英語のマジェスティですね)に対して呼びかけるという事なのだと思うのだけど。

でも王様の方は「我が民」に対して Usted なんていうヨソヨソシイ呼びかけをしてはいけないのだと思う。そして他のヨーロッパ王室や皇族の方々に対しても、常に同等の親しい関係でなくてはいけないんじゃないでしょか?

だから王様が Usted を使うところって聞いた事がない…と思ったのだけれど、考えてみれば、王様が誰かに話すのを、直に聞いた事がある訳でもなかったのでした。(笑)

でも、ごくたまに、テレビのニュースなどで王様が庶民と触れ合ってる姿を見た事があって、Tú で話してた記憶が…少なくとも、行事におけるスピーチなどで国民に呼びかける王様、常に Tú の複数形である Vosotros を使ってるよね? Usted の複数形である Ustedes を使ってるの、聞いた事ない。親しみを込めて「オマエタチ」って言ってる感じがするんですが。

…あ、それから、もうひとり! 車を修理に持って行ってた近所の町工場の親方、マリアーノは、誰に対しても Tú だったっけ…

…で、ふと思ったのだけど、あのマリアーノ親方がスペイン国王と話すような事があったら、彼は王様をどう呼ぶのだろう…???(…と想像したら笑えて来た…わははっ)

*追記: ちなみに Usted は、実は Vuestra merced という古い敬称が約まったもので、直訳すると「あなた方の恵み、慈悲、御意」というような意味になる。だから(2人称なのに)動詞が3人称単数形になるのですが…で、この「あなた方」も実は「おまえ達」だったりして(ややこしくてスミマセン)、複数なのに2人称単数の敬称として使われたようで、スペインの時代劇を見てると、昔の騎士なんかが使ってる。日本語の「お前」も、本来の意味は「オンマエ」だったりするので、面白いなあと思うのですが、どうでしょう?(2007年6月8日)

追記2: スペイン国王が tú を使わないかもしれない相手を、思いつきました。それはローマ法王。教会と王室の関係というのは、言わば神と王の関係? カソリック教会の中でも最高位にあるバチカンの、その又トップに居るのがローマ法王…う~む、スペイン国王がローマ法王や、或いはナントカ枢機卿などという教会の高官(?)と話す時は、どういう呼びかけを使うのだろう…(2008年8月)

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